法令

熱中症リスクと労災認定 – 労基署対応フローと記録義務

熱中症と労災の基本

熱中症は条件次第で業務災害として認定される

職場における熱中症は、労働基準法施行規則別表第1の2に「暑熱な場所における業務による熱中症」として明記されており、条件を満たせば労災認定の対象となります。
2024年の確定値では、職場での熱中症による死傷者数(死亡・休業4日以上)は1,257人、そのうち死亡者は31人にのぼり、深刻な状況が続いています。

出典:e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」別表第1の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023

出典:厚生労働省「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001496511.pdf

熱中症とは、高温多湿な環境下において、体内の水分と塩分のバランスが崩れ、体温調節機能が破綻することで発症する障害の総称です。
めまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直、大量の発汗、頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感、意識障害・痙攣・手足の運動障害、高体温などの症状が現れます。

認定は労基署が業務起因性と業務遂行性で判断する

労災認定を受けるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要件を満たす必要があります。

業務遂行性とは、労働者が事業主の支配下にある状態で発症したことを指します。
これは単に作業中だけでなく、作業の準備・後始末中など、業務に付随する活動中に発症した場合も該当します。
なお、休憩時間中は原則として事業主の支配下になく業務遂行性は否定されますが、休憩所の施設・設備の不備や欠陥が原因で熱中症を発症した場合など、例外的に業務遂行性が認められることがあります。

一方、業務起因性は、業務と熱中症の発症との間に相当因果関係があることを意味します。
高温多湿な環境での作業が長時間続いた、適切な休憩や水分補給の機会が確保されていなかった、といった状況が認められれば、業務が原因となって発症したと判断されます。
労基署は、作業環境、作業時間、作業強度、被災労働者の健康状態など、様々な要素を総合的に検討し、医学的に熱中症であることが確認された上で、労災認定の可否を決定します。

通勤途上は通勤災害の可能性がある

通勤中に熱中症を発症した場合は、通勤災害として認定される可能性があります。
通勤災害と認められるためには、合理的な経路及び方法による移動中であることが必要です。
ただし、経路を逸脱したり、移動を中断した場合は、原則として通勤災害とは認められません。

職場で増える熱中症発生状況

建設業や製造業で死傷災害が集中している

2024年の統計によると、熱中症による死傷者の約4割が建設業と製造業で発生しています。
死亡災害31人のうち、建設業が10人、製造業が5人を占めており、これらの業種での対策強化が急務となっています。

その他、運送業や警備業でも発生が目立ち、屋外作業や高温環境での作業を伴う業種で特にリスクが高くなっています。
月別では7月と8月に約8割が集中しています。
時間帯別では午前中や15時前後に多いものの、いずれの時間帯でも発生しています。

出典:厚生労働省「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001496511.pdf

災害はWBGT把握不足と初期対応遅れが主要因である

2024年の死亡災害31件のうち24件で、WBGT(暑さ指数)の把握が確認できませんでした。
WBGTは気温に加え、湿度、風速、輻射熱を考慮した暑熱環境によるストレスの評価指数であり、熱中症予防の基本となる指標です。

また、20件では発症時・緊急時の措置の確認や周知が確認できませんでした。
「休ませて様子を見ていたところ容態が急変した」「倒れているところを発見された」など、初期対応の遅れが重篤化につながるケースが目立ちます。

出典:厚生労働省「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001496511.pdf

夏季ピークを見越した事前対策が必須である

熱中症は予防可能な労働災害です。
特に梅雨から夏季になる時期において、気温が急上昇する際は、労働者が暑熱順化していないことに留意が必要です。
暑熱順化期間として、7日以上かけて熱へのばく露時間を次第に長くすることが推奨されています。
特に日常的に暑熱環境で作業する労働者では、7日程度で順化が進むとされています。
一方、暑さに慣れていない人や作業開始直後・連休明けは順化が不十分なため、この時期は特に注意が必要です。

出典:厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/content/001676299.pdf

2025年改正の重要ポイント

熱中症発症時の措置手順作成と周知が義務となった

2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則第612条の2により、事業者に新たな義務が課されています。

第1項:報告体制の整備 熱中症を生ずるおそれのある作業(WBGT28度以上または気温31度以上の場所で連続1時間以上または1日4時間超の作業)を行う際は、以下の体制整備が必要です:

  • 作業者が熱中症の自覚症状を有する場合の報告体制
  • 他の作業者が熱中症の疑いを発見した場合の報告体制
  • 関係作業者への体制の周知

第2項:措置手順の作成 作業場ごとに以下の措置の内容と実施手順を定める必要があります:

  • 作業からの離脱
  • 身体冷却(水をかける、涼しい場所への避難、ミストファン等)
  • 必要に応じた医師の診察または処置
  • その他熱中症の症状悪化防止に必要な措置

報告先掲示と冷却搬送体制の整備が罰則付きで求められる

改正規則では、報告先の明示が事業者の重要な義務となっています。
作業場の責任者等の連絡先を明確に定め、作業者がいつでも報告できる状態を保つ必要があります。

効果的な体制整備の方法として、責任者による作業場所の定期的な巡視、2人以上の作業者が互いの健康状態を確認し合うバディ制の採用、ウェアラブルデバイスを活用した生体情報のリアルタイムモニタリング、責任者と労働者間での双方向の定期連絡などが推奨されています。
ただし、ウェアラブルデバイスだけに頼ることは危険であり、必ず他の方法と組み合わせて使用することが重要です。

これらの義務は労働安全衛生法第22条に基づくものであり、違反した場合は罰則の対象となります。
単なる努力義務ではなく、法的な強制力を持つ規定であることを十分認識する必要があります。

出典:厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」 https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001496526.pdf

周知結果の記録保存は法令義務ではないが整備が望ましい

報告体制の周知結果の記録保存は法令上の義務ではありませんが、監督署対応への備えとして整備しておくことが望ましいです。
労働基準監督署による確認の際には、事業者として適切に対応したことを示す必要があります。
そのため、以下の記録を残すことが推奨されます:

  • 周知の実施日時と方法
  • 周知対象者のリスト
  • 掲示物の写真や配布資料の控え
  • 朝礼等での伝達記録

労基署対応フロー全体像

まず救急要請と身体冷却を即時に実施する

熱中症が疑われる場合の初動対応は、労働者の生命を左右する極めて重要な局面です。
まず意識の状態を確認し、返事がおかしい、ぼーっとしているなど、普段と様子が異なる場合は、直ちに救急隊を要請します。
救急要請と並行して、涼しい場所への移動と身体冷却を開始することが重要です。

具体的には、エアコンの効いた室内や日陰に移動させ、衣服を脱がせて水をかける、うちわで扇ぐなどの冷却措置を行います。
意識がはっきりしている場合は、水分と塩分の補給も行いますが、意識が朦朧としている場合は、誤嚥の危険があるため無理に飲ませてはいけません。
判断に迷う場合は、ためらわずに#7119(救急相談センター)等を活用し、専門家の指示を仰ぐことが重要です。
安易な素人判断は、重篤化を招く危険があることを認識しておく必要があります。

単独放置を避けて経過観察と搬送判断を行う

熱中症を発症した労働者を一人きりにすることは絶対に避けるべきです。
医療機関への搬送中や経過観察中は、必ず誰かが付き添い、容態の変化を監視します。

自力で水分摂取ができない場合や、症状が改善しない場合は、速やかに医療機関へ搬送します。
回復したように見えても、帰宅後に症状が悪化することがあるため、慎重な判断が必要です。

現場保全と一次記録を速やかに残す

労災調査に備えた記録作成は、事実を正確に把握し、適切な労災認定を受けるために不可欠です。
熱中症が発生した場合は、動転しがちな状況下でも、冷静に必要な情報を記録する必要があります。

現場情報として記録すべき内容は、発生日時と正確な場所、その時の天候状況、可能であればWBGT値、それが測定できない場合は気温と湿度、被災者が従事していた作業内容と作業開始からの経過時間、休憩の取得状況などです。
これらの環境要因は、業務起因性を判断する上で極めて重要な要素となります。

被災者に関する情報も詳細に記録します。
氏名、年齢、その作業の経験期間に加え、当日の健康状態も確認します。
睡眠時間や朝食の摂取状況、前日の飲酒の有無は労災の様式上の必須項目ではありませんが、体調把握のために任意で記録しておくと有用です。
症状がどのように現れ、どのような経過をたどったか、どのような対応を行ったか、搬送先の医療機関名とその診断内容も漏れなく記録することが、後の労災申請や再発防止対策の立案に役立ちます。

労働者死傷病報告の実務

労働者死傷病報告を遅滞なく提出する

労働安全衛生規則第97条により、労働者死傷病報告の提出が義務付けられています。
「遅滞なく」とは、正当または合理的な理由なく遅れることなくという意味で、一般的に1~2週間程度と解釈されています。

災害発生から報告書提出まで1か月を超過している場合は、遅れた理由について書面(報告遅延理由書)の提出を求められることがあります。

出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」 https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032

出典:諫早労働基準監督署「労働者死傷病報告の適切な提出にあたってのお願い」 https://jsite.mhlw.go.jp/nagasaki-roudoukyoku/content/contents/hokoku-20070602.pdf

休業四日以上は遅滞なく電子申請で報告する

休業4日以上の災害が発生した場合は、遅滞なく電子申請により所轄労働基準監督署長に報告します。
主な報告事項には以下が含まれます:

  • 事業場の名称、所在地、労働保険番号
  • 被災労働者の氏名、生年月日、職種、経験期間
  • 災害発生の日時、場所、状況
  • 傷病名と傷病部位
  • 休業見込期間

休業四日未満は四半期ごとに取りまとめて報告する

休業1日以上4日未満の災害については、電子申請により、1月~3月分を4月末日まで、4月~6月分を7月末日まで、7月~9月分を10月末日まで、10月~12月分を翌年1月末日までに提出します。

電子申請の義務化に対応した提出体制を整える

労働者死傷病報告は2025年1月1日から報告事項が改正され、電子申請が原則義務化されました。
電子申請が困難な場合には、当分の間、書面による報告も認められていますが、従来の様式第23号・第24号(旧様式)は使用できません。
e-Govを通じた申請により、迅速な提出と管理が可能となります。

出典:厚生労働省「労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されました(令和7年1月1日施行)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/denshishinsei_00002.html

再発防止対策書の提出要請に備える

重大な災害や同種災害の繰り返し発生時には、労基署から再発防止対策書の提出を求められることがあります。
決まった様式が定められているわけではありませんが、一般的に次のような項目を盛り込んで作成します:

  • 災害の原因分析
  • 再発防止措置の具体的内容
  • 実施スケジュール
  • 責任者と実施体制

休業日数は暦日でカウントすることに留意する

労災における休業日数は、土日祝日を含む暦日でカウントします。
例えば、金曜日に災害が発生し、月曜日から出勤した場合でも、土日を含めて3日の休業となります。
この点を誤解すると、報告書の提出時期を誤る可能性があるため注意が必要です。

労災認定と請求の手順

診断書と事業主証明を添えて労基署へ請求する

労災保険給付を請求する際は、以下の書類を準備します:

療養(補償)等給付請求書(様式第5号または第16号の3・労災指定医療機関で受診する場合)

  • 医師の診断書
  • 事業主証明(災害発生状況の証明)

休業(補償)等給付請求書(様式第8号または第16号の6)

  • 賃金を受けない日の証明
  • 平均賃金の算定に必要な資料

出典:厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousaihoken.html

会社協力が得られない場合でも労働者は直接請求できる

労災申請において事業主の協力が得られないケースは、残念ながら存在します。
しかし、このような場合でも労働者の権利は保護されています。
事業主が労災申請に協力しない、あるいは労災隠しを図ろうとする場合でも、労働者は単独で労基署に請求書を提出することができます。

事業主証明欄が空欄の請求書でも労基署は受理し、独自の調査を開始します。
このような場合、労働者側で準備しておくと有利になる資料があります。
災害発生状況を詳細に説明した書面を作成し、可能であれば目撃者の証言を得ておくことが重要です。
また、医療機関の診断書は、熱中症の発症と業務との関連性を医学的に裏付ける重要な証拠となるため、主治医には業務中の状況を詳しく説明し、診断書に反映してもらうことが望ましいでしょう。

不支給時は審査請求と再審査請求で不服申立てが可能である

労災認定が不支給となった場合、以下の不服申立て制度があります:

  1. 審査請求 – 決定を知った日の翌日から3か月以内に労働者災害補償保険審査官に請求
  2. 再審査請求 – 審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月以内に労働保険審査会に請求
  3. 行政訴訟 – 審査官の決定または審査会の裁決があったことを知った日の翌日から6か月以内に裁判所に提訴(審査官の決定後、再審査請求をせずに提訴することも可能)

出典:厚生労働省「労災保険審査請求制度」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000127192.html

管理記録と保存期間の実務

安全衛生教育や周知の実施記録を体系的に残す

熱中症予防に関する教育・周知の記録は、労災調査や監督署の臨検時に重要な証拠となります。
以下の記録を体系的に管理します:

  • 雇入れ時の安全衛生教育記録
  • 熱中症予防教育の実施記録(日時、内容、受講者名簿)
  • 朝礼等での注意喚起の記録
  • 措置手順の周知記録

特別教育記録は三年間保存が必要である

労働安全衛生規則第38条により、特別教育の記録は3年間の保存が義務付けられています。
熱中症予防に関連する特別教育を実施した場合は、以下を記録・保存します:

  • 受講者の氏名
  • 教育を行った年月日
  • 教育の内容
  • 教育を行った者の氏名

一般健康診断個人票は五年間保存が必要である

労働安全衛生規則第51条により、健康診断個人票は5年間の保存が必要です。
熱中症の発症に影響を与える疾患(糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全等)の有無を確認する重要な資料となります。

出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」 https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032

WBGT測定や給水休憩の運用記録はエビデンスとして保存推奨である

法的な保存義務はありませんが、以下の記録は労災調査や再発防止に有効です:

  • WBGT値の測定記録(日時、場所、測定値)
  • 給水・塩分補給の実施記録
  • 休憩時間の取得記録
  • 作業ローテーションの記録

災害調査票やヒアリング記録は再発防止と監督署対応に有効である

熱中症が発生した場合、詳細な災害調査を実施し、記録を保存することが重要です:

  • 災害調査票(原因分析、再発防止策)
  • 関係者へのヒアリング記録
  • 現場写真、見取り図
  • 気象データ

現場で使える対応書式

報告先掲示と緊急連絡網テンプレートを整備する

作業現場の見やすい場所に、以下の情報を掲示します:

【熱中症発生時(疑いを含む)の報告先】

責任者:○○○○(電話:○○-○○○○)

代 理:○○○○(電話:○○-○○○○)

【緊急連絡先】

救急:119

救急相談:#7119

○○病院:○○-○○○○(住所:○○市○○町○-○)

発症時対応手順書を業務別に作成する

業務特性に応じた対応手順書を作成し、関係者に配布します。
建設現場、製造現場、屋内作業など、環境に応じた具体的な手順を定めます。

経過観察記録と搬送判断チェックリストを用意する

熱中症が疑われる者の経過観察記録票を準備し、以下の項目をチェックします:

  • 意識レベル(清明、混濁、昏睡)
  • 体温、脈拍、血圧
  • 自力での水分摂取の可否
  • 症状の改善・悪化
  • 医療機関への搬送判断

再発防止対策書の骨子を事前に共有する

再発防止対策書のテンプレートを準備し、迅速に作成できる体制を整えます:

  1. 災害の概要
  2. 原因分析(直接原因、間接原因)
  3. 再発防止対策(ハード面、ソフト面)
  4. 実施計画とスケジュール
  5. 効果の検証方法

予防の要点とリスク低減策

WBGT基準に基づき作業中に測定と運用判断を行う

WBGT基準値は、身体作業強度に応じて設定されています:

  • 低代謝率(軽作業):30℃(暑熱順化者)、29℃(非順化者)
  • 中程度代謝率:28℃(順化者)、26℃(非順化者)
  • 高代謝率:26℃(順化者)、23℃(非順化者)
  • 極高代謝率:25℃(順化者)、20℃(非順化者)

作業中は定期的にWBGT値を測定し、基準値を超える場合は作業時間の短縮、休憩頻度の増加等の対策を実施します。

出典:厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/content/001676299.pdf

作業環境管理と工学的対策でWBGTを下げる

作業環境の改善により、熱中症リスクを低減します:

  • 遮熱材、断熱材の設置
  • 直射日光を遮る簡易屋根の設置
  • 通風、冷房設備の設置
  • スポットクーラーの活用(屋内・密閉空間はこちらを基本とする。ミストファンは屋外や換気の良い場所に限り有効で、屋内では湿度上昇により逆効果になるため使用しない)
  • 休憩所への冷房設備の設置

作業管理と休憩給水で生理的負荷を抑制する

適切な作業管理は、労働者の熱負荷を軽減し、熱中症を予防する上で極めて重要です。
まず、作業の休止時間と休憩時間を十分に確保することが基本となります。
特に気温が最も高くなる14時から15時頃の時間帯は、可能な限り重作業を避け、比較的涼しい朝夕の時間帯に作業を集中させるなど、作業スケジュールの工夫が必要です。

水分と塩分の補給については、のどの渇きを感じる前に定期的に摂取することが重要です。
具体的には、20~30分ごとに200~300mlの水分を摂取し、大量の発汗がある場合は0.1~0.2%の食塩水やナトリウム40~80mg/100mlのスポーツドリンクで塩分も補給します。
作業現場には、これらの飲料を十分に準備し、労働者がいつでも摂取できる環境を整えることが事業者の責務となります。

出典:厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/content/001676299.pdf

教育訓練と体調申告で早期発見につなげる

労働衛生教育の徹底は、熱中症予防の基盤となります。
労働者一人ひとりが熱中症の危険性を正しく理解し、初期症状を見逃さないことが、重篤化を防ぐ鍵となります。
教育内容としては、熱中症の症状と進行過程、予防方法、緊急時の救急処置方法を含める必要があります。

特に重要なのは、体調不良を我慢せずに申告する文化を醸成することです。
「このくらいなら大丈夫」という過信や、「仕事に迷惑をかけたくない」という遠慮が、取り返しのつかない事態を招くことがあります。
管理者は、体調不良の申告がしやすい雰囲気づくりに努め、申告があった場合は速やかに対応する体制を整える必要があります。

また、バディ制の導入により、労働者同士が相互に健康状態を監視し合うシステムも効果的です。
自分では気づきにくい異変も、他者の目から見れば発見しやすいため、早期発見・早期対応につながります。
このような相互監視体制は、単独作業を避けることにもつながり、万が一の際の迅速な対応を可能にします。

よくある論点とFAQ

屋内でもWBGT基準超過時は対策が必須である

屋内作業であっても、WBGT基準値を超える場合は熱中症対策が必要です。
特に、高温の製造現場、調理場、ボイラー室などでは、屋外と同様のリスクがあります。
冷房設備の設置、適切な換気、作業時間の管理が重要となります。

自主的残業中の発症は状況次第で認定が分かれる

残業中の熱中症発症については、以下の要素が考慮されます:

  • 使用者の指揮命令下にあったか
  • 黙示の業務命令があったか
  • 業務の必要性、緊急性があったか

明示的な残業命令がなくても、業務上の必要性から残業せざるを得ない状況であれば、労災認定される可能性があります。

服薬や基礎疾患の影響は個別の業務起因性で判断される

糖尿病、高血圧症、心疾患などの基礎疾患を持つ労働者や、これらの治療薬を服用している労働者が熱中症を発症した場合、労災認定において複雑な判断が必要となることがあります。
しかし、基礎疾患があることをもって直ちに労災認定が否定されるわけではありません。

労基署は、業務が相対的に有力な原因となって熱中症を発症したかどうかを個別に判断します。
この判断においては、作業環境の過酷さ、作業時間の長さ、休憩や水分補給の機会が適切に確保されていたか、事業者が労働者の健康状態を把握し適切な配慮を行っていたかなど、様々な要素が総合的に考慮されます。

例えば、糖尿病の持病がある労働者が、WBGT値が基準を大幅に超える環境で、十分な休憩もなく長時間の作業を強いられた結果、熱中症を発症した場合、業務の過重性が認められ、労災認定される可能性は十分にあります。
事業者としては、健康診断の結果を踏まえ、基礎疾患を持つ労働者に対しては、より慎重な健康管理と作業管理を行うことが求められます。

まとめと実務チェック

迅速な応急措置と遅滞なき報告が最大の防御線である

熱中症による重篤化を防ぐためには、初期対応が極めて重要です。
症状を認めたら直ちに作業を中断し、応急措置を開始することが、労働者の生命を守る最大の防御線となります。
また、労働者死傷病報告を遅滞なく提出することで、法令遵守と適切な対応を示すことができます。

記録と手順の整備が労災認定と再発防止の決め手となる

適切な記録管理は、労災認定の際の重要な証拠となるだけでなく、再発防止にも不可欠です。
WBGT測定記録、教育実施記録、健康管理記録等を体系的に保存し、いつでも提示できる状態を維持することが重要です。

2025年改正対応を今季の運用に落とし込む

2025年6月1日に施行された改正規則への対応は、すでに事業者の義務となっています。
報告体制の整備、措置手順の作成、関係者への周知が現場で運用できているかを定期的に点検し、実効性のある熱中症対策を構築することが、労働者の安全と企業の法的リスク管理の両面から不可欠です。

各事業場においては、本記事で示した対策を参考に、自社の実情に応じた熱中症予防対策を確立し、労働者の健康と安全を守る体制を整備することが求められています。

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